指定野菜に追加されるブロッコリー、スルフォラファンとピロリ菌の関係は?

サラダやシチュー、お弁当のつけ合わせなど料理の名バイプレーヤーとして人気の高いブロッコリー。2026年度には、1974年以来約50年ぶりに指定野菜に追加されることになり、ますます注目が高まっています。
さまざまな食べ物と相性のいいブロッコリーには「おいしい」だけではなくて、各種ビタミンやミネラルも含まれており、栄養価の面でもさまざまな効果が期待できます。

そして最近、特に注目されているのがブロッコリーに含まれる「スルフォラファン・グルコシノレート(SGS)」という成分です。スルフォラファン・グルコシノレートは、ブロッコリーに多く含まれる健康成分で、特に新芽である「ブロッコリースプラウト」にはスルフォラファン・グルコシノレートが高濃度に含有されています。スルフォラファン・グルコシノレートは、体内でスルフォラファンへ変換されると、解毒酵素や抗酸化酵素を高め、さまざまな疾病の予防に有効であることが期待されています参1)

そこで、今回は「ピロリ菌とスルフォラファン・グルコシノレートの関係」についてお届けします。

ピロリ菌って何? どんなふうに感染するの?

そもそもピロリ菌とはどんな細菌なのでしょうか?
「ピロリ菌」と聞くとなんとなく「かわいい名前だな」と思う人もいるかもしれません。

しかし、そんな名前とは裏腹に、ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に生息している細菌で、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸の炎症、胃がんなどの発生に密接に関わっているとされています。1982年に初めてピロリ菌の培養に成功したオーストラリアのウォーレンとマーシャルは2005年にノーベル賞を受賞しました。

ピロリ菌の感染率は乳幼児期の衛生環境と関係しているとされ、上下水道が整っていなかった1960年頃よりも前に生まれた人が感染している割合が高いと言われています。現代では衛生環境が整えられ、親世代の感染率も低くなったので子供のピロリ菌の感染率は低下しています。成人になってからの感染はほとんどありません。

ピロリ菌の感染経路ははっきりとわかっていませんが、口から入って胃に感染する経口感染が原因と考えられており、胃酸を分泌する壁細胞が十分機能を発揮できていない乳幼児期に感染するとされています。

胃にピロリ菌が存在できる理由は?

そもそも、強力な酸である胃酸に覆われている胃の粘膜に細菌は存在できるのでしょうか?
実は、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を出して自分の周りにアルカリ性のアンモニアを作り出すことで胃に棲むことができています。

ピロリ菌の検査方法と治療は?

ピロリ菌の検査は、胃炎や胃潰瘍などがある人は保険が適用されますが、胃の異常を指摘されていない人が自主的に検査を受ける場合は自己負担になります。また、人間ドックや検診で希望した場合も自費で検査を受けることになります。

ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。もし感染しているとわかった場合、ピロリ菌を除菌するための治療があります。ピロリ菌の除菌治療は一次除菌と二次除菌が用意されています。

一次除菌では、2種類の抗生物質と1種類の胃酸の分泌を抑える薬の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用します。一次除菌の後に一定期間が経過したら、除菌できたかどうか再度検査する必要があります。正しく薬を服用すれば、1回目の除菌療法の成功率は80%前後と言われています。一次除菌ができなかった場合は、抗菌薬の種類を変えて二次除菌を行います。

ピロリ菌の増加を抑える食品は?

ピロリ菌がいるかどうかは検査を受けてみないとわからないですが、ピロリ菌の活動を抑えるために日頃からできることはあるのでしょうか?

ピロリ菌の活動や増加を抑えることが期待される食品として、冒頭で紹介したスルフォラファン・グルコシノレートが含まれているブロッコリーがあります。

2009年に「ピロリ菌感染者がスルフォラファン・グルコシノレートを含むブロッコリースプラウトを継続摂取すると、ピロリ菌の量が減少するとともに、胃の炎症マーカーが有意に改善された」という論文参2)が発表されました。

この論文中では、ピロリ菌の影響が抑えられた理由として、スルフォラファンがピロリ菌に対して抗菌作用を示すことによる直接的な効果があったほか、人の細胞保護反応を高めることによる間接的な効果もあったとも考えられています。参3)

自分のライフスタイルに合わせて食べ物やサプリをうまく取り入れていきたいものですが、胃の表面を守る粘液を減らしてしまう塩分の過剰摂取には注意しましょう。

ただ、「感染しているかも?」と心当たりがあったり、これまで検査を受けたことがない人は、まずは医師に相談したり、医療機関を受診したりすることをおすすめします。

■ 参考論文・サイト

参1) Molecules | Free Full-Text | Broccoli or Sulforaphane: Is It the Source or Dose That Matters? (mdpi.com)

参2) Yanaka, A., et al. (2009). "Dietary sulforaphane-rich broccoli sprouts reduce colonization and attenuate gastritis in Helicobacter pylori-infected mice and humans." Cancer Prev Res (Phila) 2(4): 353-360.

参3) Complementary mouse and human evidence thus suggests that sulforaphane may have both a direct antibacterial effect on H. pylori, leading to reduced gastritis, as well as having an indirect (systemic) effect by increasing the mammalian cytoprotective (phase 2) response

厚労省が指針で検診を勧める5つのがん

「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」(日本消化器病学会)

日本ヘリコバクター学会

■参考文献

『ピロリ菌:日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶』(祥伝社/著:伊藤愼芳)

『胃の病気とピロリ菌: 胃がんを防ぐために』(中央公論新社/著:浅香正博)

<監修>

佐藤留美医師
久留米大学医学部を卒業後、同大学病院や市中病院にて臨床医として研鑽を積む。大学院では感染症学の研究に励み、医学博士号を取得。臨床面では内科・呼吸器・感染症・アレルギーなどの専門医及び指導医となり、同大学関連の急性期病院にてCOVID-19の診療など第一線で活躍中。花粉症や喘息などアレルギー疾患の診療経験も豊富。その傍ら、現在は藤崎メディカルクリニックの副院長として地域医療にも取り組んでいる。

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