今回は認知機能の一種である「処理速度」やネガティブ感情の改善に関する興味深い研究結果についてお届けします。
情報を判断したり、覚えたりする心の働きである認知機能(記憶力や処理速度や抑制能力など)は加齢とともに低下していきます。また、高齢期になるとネガティブ感情が増加していくことも指摘されています。そのため、高齢者の認知機能や感情状態を向上させる生活介入方法の開発や実証は、人生100年時代と言われる現代、社会的にも大きく注目されています。
東北大学を中心とした研究チームが2022年に発表した論文参1)によると健康な高齢者を対象としたヒト試験で、ブロッコリー等のアブラナ科野菜に含まれるスルフォラファン・グルコシノレートを継続的に摂取することで、認知機能の一種である「処理速度」や、怒りや混乱や抑うつなどを含む全般的なネガティブ感情が改善することが確認されました。
スルフォラファン・グルコシノレートは、強い抗酸化作用と肝臓における毒素分解を促進させる作用があるとされています。
今回行った研究では、健康な高齢者144人(平均年齢 66.82歳、男性73名、女性71名)を、スルフォラファン・グルコシノレートを含むサプリメントを摂取する 「スルフォラファン・グルコシノレート(SGS)群」と、スルフォラファン・グルコシノレートが全く入っていないプラセボサプリメントを摂取する「プラセボ群」に分けて、試験を実施しました。
それぞれのサプリメントを毎日、12週間にわたり摂取してもらった期間の前後で認知機能検査やアンケート検査を行いました。
研究の結果、認知機能検査や質問紙検査の変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いて算出)を用いて、スルフォラファン・グルコシノレートを含むサプリメントの効果を調べたところ、プラセボ群と比較して、スルフォラファン・グルコシノレート(SGS)群では認知機能のひとつである処理速度が統計学的に有意に向上し、さらに怒りや混乱や抑うつなどを含む全般的なネガティブ感情が有意に軽減しました参2)。
スルフォラファンは、1992年にアメリカのジョンズ・ホプキンス医科大学のポール・タラレー博士らによって発見されました。アブラナ科の植物(ブロッコリー、カリフラワー、ケール、芽キャベツ)などに含まれる健康成分で、スルフォラファン・グルコシノレートという形でブロッコリーに多く含まれています。スルフォラファン・グルコシノレートは、体内でスルフォラファンへ変換されると、解毒酵素や抗酸化酵素の活性を高め、さまざまな疾病の予防に有効であることが期待されています参3)。ブロッコリーの新芽であるブロッコリースプラウトは、成熟したブロッコリーよりも約20倍もの高濃度にスルフォラファン・グルコシノレートを含んでいます。
ブロッコリーはニュースでもたびたび報道されているとおり、2026年度から国が定める「指定野菜」に仲間入りします。指定野菜とは、消費量が多い野菜や多くなることが見込まれる野菜です。今のところ、キャベツ、キュウリ、里芋、大根、トマト、ナス、にんじん、ネギ、白菜、ピーマン、レタス、玉ねぎ、ジャガイモ、ほうれん草の14品目が指定野菜に指定されています。
ブロッコリーは、ビタミンやミネラルを豊富に含んでおり、高コレステロール血症の改善効果も期待されています。まさにシニア世代にとってはぜひとってほしい食材の一つです。
茎の部分は切り落としてしまいがちですが、茎にも栄養素が豊富に含まれているので丸ごと食べられます。メインのおかずとしてはもちろん副菜やお弁当などでも手軽に食べられるので、ぜひ毎日の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?
また、食材としてとるのは難しくても最近はサプリメントなどから栄養をとることも可能です。そうしたサプリの力も借りながら自分らしい人生を送っていきたいものです。
■ 参考文献
・参1)
Nouchi R, Hu Q, Ushida Y, Suganuma H and Kawashima R (2022) Effects of sulforaphane intake on processing
speed and negative moods in healthy older adults: Evidence from a randomized controlled trial. 3 Front.
Aging Neurosci. 14:929628. doi: 10.3389/fnagi.2022.929628
・参2)
Nouchi, R., et al. (2022). "Effects of sulforaphane intake on processing speed and negative moods in healthy
older adults: Evidence from a randomized controlled trial." Frontiers in Aging Neuroscience 14.
・参3)
Yanaka, A., et al. (2009). "Dietary sulforaphane-rich broccoli sprouts reduce colonization and attenuate
gastritis in Helicobacter pylori-infected mice and humans." Cancer Prev Res (Phila) 2(4): 353-360.