物忘れは認知症? 認知症を予防するための食習慣は?

前回、認知機能の一種である「処理速度」やネガティブ感情の改善に関する興味深い研究結果についてご紹介しました。

「年を重ねるにつれて物忘れがひどくなった。もしかして認知症では?」と思っているシニア世代もいらっしゃるかもしれません。そこで、今回は内科医の佐藤留美医師に、認知症や認知症予防について伺いました。

物忘れは認知症? 認知症の種類とは?

――人生100年時代と言われ、第二の人生や健康寿命に注目が集まっています。認知症予防も多くの人が気になるところだと思うのですが、まず認知症とはどのような状態のことを指すのか教えてください。

佐藤留美医師(以下、佐藤):認知症とは、さまざまな脳の病気により、脳の神経細胞の働きが低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態を指します。

――年を重ねると、昨日食べたものをすぐには思い出せなかったり、人の名前を忘れてしまったりといういわゆる「物忘れ」があると思うのですがそれは認知症ですか?

佐藤:それは加齢による物忘れで認知症とは違います。例えば、朝ごはんに何を食べたかを忘れるのは加齢によるもの忘れですが、朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまうのが認知症の症状です。そして日常生活に支障をきたすのが認知症です。

――認知症の種類を教えてください。

佐藤:一言で認知症と言ってもいろいろ種類があるのですが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症の3つが認知症の中で発症数が多く、全体の約80%を占めています。特にお年を召した方に多いのがアルツハイマー型認知症です。

認知機能の維持や認知症の予防に大切なことは?

――「高年齢の健康な日本人男女(平均67.7歳)のうち、スルフォラファン・グルコシノレート(SGS)を含有するブロッコリースプラウトエキスを含む試験食品を摂取した人は、エキスを含まない対照食品を摂取した人と比べて、処理速度(作業をこなす速さ)や作業記憶(情報を忘れない力)の改善が認められた」という論文参1)もあります。認知機能の維持や認知症予防のための食べ物などはあるのでしょうか?
※研究は、脳トレーニングまたは対照ゲームのいずれかの実施、試験食品または対照食品のいずれかの摂取とを組み合わせて実施された。

佐藤:まず、認知症の予防に大切なことは脳の健康を維持することです。生活習慣病の改善と食事からの老化予防も大事です。バランスの良い食事を摂ることと、カロリーを摂りすぎない。だからと言って摂らなさすぎもよくないのですが、バランスよく摂るということですね。

あとは塩分を控えること。高血圧予防のためなのですが、高血圧になると脳梗塞や脳出血といった脳の病気を引き起こす可能性や危険性が高まるので塩分を控えましょうということですね。糖尿病にならないように糖分を控えたりするのも大事です。

――食べ物に関してはいかがでしょうか?

佐藤:まずは オメガ3脂肪酸のDHAやEPAが多く含まれた青魚、緑黄色野菜、葉酸がおおく含まれるいちごやキウイ、オレンジなどの果物、強い抗酸化作用があるポリフェノールを含む赤ワインなどが認知症予防に効果があると期待されています。

――反対に摂るのを控えた方がいい食べ物や栄養素はありますか?

佐藤:脳の健康を維持するということを考えると、やはり油っこいものを食べすぎるとコレステロールが溜まって脳の血管が詰まりやすくなります。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取は血中の悪玉コレステロールを増やして動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が起きると脳梗塞も発症しやすくなるので控えた方がいいでしょう。

――食べ物以外のライフスタイルで意識した方がいいことなどはありますか?

佐藤:よく言われることですが、適度な運動ですね。喫煙も控えた方がいいです。質の良い睡眠をとることも大事です。

あとは、どうしてもお一人暮らしの高齢者の方は他人と話す機会が減っている方も多いと思うのですが、誰かとコミュニケーションをとることも大事です。現役時代はバリバリと仕事していたけれど、定年になった途端人とのコミュニケーションが減ってしまい、そのまま思考力が低下していくケースも見られます。日記を書くのもおすすめです。今日は何をしたかというのを記録するのも大事です。

また、好奇心を持って色々なことに挑戦してみる。ゲートボールやガーデニングなど、ちょっとでも興味を持ったことをやってみるのも認知症予防につながるかなと思います。

<プロフィール>

佐藤留美医師
久留米大学医学部を卒業後、同大学病院や市中病院にて臨床医として研鑽を積む。大学院では感染症学の研究に励み、医学博士号を取得。臨床面では内科・呼吸器・感染症・アレルギーなどの専門医及び指導医となり、同大学関連の急性期病院にてCOVID-19の診療など第一線で活躍中。花粉症や喘息などアレルギー疾患の診療経験も豊富。その傍ら、現在は藤崎メディカルクリニックの副院長として地域医療にも取り組んでいる。

参1) Nouchi, R., et al. (2021). "Brain Training and Sulforaphane Intake Interventions Separately Improve Cognitive Performance in Healthy Older Adults, Whereas a Combination of These Interventions Does Not Have More Beneficial Effects: Evidence from a Randomized Controlled Trial." Nutrients 13(2).

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