一方で、健康診断の結果を見ても医師や専門家の解説がないと詳しい部分まではわかりません。
例えば血液検査でわかる主な病気は貧血、肝臓の異常、腎臓の異常、脂質異常症、糖尿病などが挙げられますが、中高年と言われる世代はどこに注意すればいいのでしょうか?
そこで、今回は内科医の佐藤留美(さとう・るみ)医師に、健康診断に関して血液検査でわかることについて伺いました。
――20代や30代の頃はそれほど健康診断の結果を見るのが怖くなかったのですが、40代に突入して病気が見つかったらどうしようと不安になることは増えた気がします。中高年と言われる世代が注意したほうがいいことがあれば教えてください。
佐藤留美医師(以下、佐藤):40代以上になると、高血圧症、糖尿病、脂質異常症が増えてくる年代と言えます。いわゆる生活習慣病ですね。生活習慣病は、食事や運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣が深く関与し、発症の原因となる疾患の総称です。具体的な病名は定義されていませんが、がん、脳血管疾患、心疾患、高血圧症、糖尿病、脂質異常症が含まれています。
――健康診断では必ず血液検査をすると思うのですが、血液検査では何がわかるのでしょうか?
佐藤:血液検査でわかる主な病気は貧血、肝臓の異常、腎臓の異常、脂質異常症、糖尿病などですね。
――年末年始はイベントも多く、お酒を飲む人は特に肝臓の数値を気にしている方が多いと思うので、今回は肝臓の数値について教えていただければと思います。
佐藤:まずは肝臓について少し解説しますね。「肝腎要(かんじんかなめ)」という言葉にもあるように、肝臓は体の中でも重要な役割を持つ臓器です。「沈黙の臓器」とも呼ばれ、気付かないうちにダメージを抱えていて、自覚症状が出た時にはもう遅いという性質も抱えているので、定期的な健康診断は大事になってきます。
「肝臓」と聞くと、おっしゃる通りお酒をイメージする方も多いと思うのですが、肝臓には糖や脂肪などの食べ物からとった栄養を体のエネルギーに変える「代謝機能」があります。なので、お酒をあまり飲まなくても油っぽい食事や甘いお菓子、肉、卵、小麦粉を普段からたくさん食べる人は注意する必要があります。
――血液検査で肝機能に関わる値でALT値とAST値とあるのですが、この値は何でしょうか?
佐藤:ALTは肝臓に、ASTは心臓、筋肉、肝臓に多く存在する酵素で、アミノ酸の代謝に関わります。肝臓に何らかのダメージが加わって細胞が破壊されると大量に放出されて血中濃度が上昇します。数値が高い場合には、急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝臓がん、アルコール性肝炎などが疑われます。AST値だけが高い場合には、心筋梗塞や筋肉疾患などが考えられます。いずれも数値が31〜50が要注意、51以上が異常と診断されます。
――ほかの項目についても教えてください。
佐藤:総タンパクは、血液中の総たんぱくの量を表し、数値が低い場合は栄養障害、ネフローゼ症候群、がんなど、高い場合は多発性骨髄腫、慢性炎症、脱水などが疑われます。アルブミンは血液タンパクのうちで最も多く含まれ、こちらの値が低いと、肝臓障害、栄養不足、ネフローゼ症候群が考えられます。γ-GTPについては次回、解説しますね。
――普段からできる肝臓ケアなどがあれば教えてください。
佐藤:そうですね……。AST値やALT値が上がる原因はもちろん油っぽいものを食べているからという食習慣や生活習慣もあるのですが、値が基準値を過ぎている時点でいろいろな病気が隠れている可能性があります。なので、早期発見のためにもまずは定期的な健康診断が大事というのは言うまでもありません。
――一例として、ALT値に関して「健康な成人男女のうち中高年(45ー65歳)において、スルフォラファン・グルコシノレート (SGS) を含むサプリメントを24週間摂取した方のALT値がプラセボサプリメントを摂取した方と比べて改善された」参2)、 さらに、「ALT値がやや高めの中高年の方においても、SGSを含むサプリメントを24週間摂取した方では、プラセボサプリメントを摂取した方と比べてALT値が改善された」参3)という2つの論文もあるのですが、そうしたサプリで補うのも良いですか?
佐藤:はい。まずは普段から食事や運動などのライフスタイルを見直して、足りないものをサプリで補うというのが良いと思います。
■ 参考サイト
・日本人間ドック学会
・厚生労働省e-ヘルスネット「生活習慣病」
■ 参考文献
『新 栄養の教科書 』(新星出版社/著:大久保 研之、深津 章子)
参2) 菊池真大, 青木雄大, 相澤宏一, 菅沼大行, 西崎泰弘.
健康成人の肝機能に対するブロッコリスプラウト抽出物含有サプリメントの有効性検証 - 多施設無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験 -.
薬理と治療 2018, 46, 81-95.
参3) Satomi, S.; Takahashi, S.; Yoshida, K.;
Shimizu, S.; Inoue, T.; Takara, T.; Suganuma, H. Effects of
broccoli sprout supplements enriched in glucoraphanin on liver functions in healthy middle-aged adults with
high-normal serum hepatic biomarkers: A randomized controlled trial. Frontiers in Nutrition 2022, 9,
doi:10.3389/fnut.2022.1077271.
<プロフィール>
佐藤留美医師
久留米大学医学部を卒業後、同大学病院や市中病院にて臨床医として研鑽を積む。大学院では感染症学の研究に励み、医学博士号を取得。臨床面では内科・呼吸器・感染症・アレルギーなどの専門医及び指導医となり、同大学関連の急性期病院にてCOVID-19の診療など第一線で活躍中。花粉症や喘息などアレルギー疾患の診療経験も豊富。その傍ら、現在は藤崎メディカルクリニックの副院長として地域医療にも取り組んでいる。