食べることが好きだったのに、年を重ねるにつれてそんなふうに悩んでいる人もいるのでは?
前回、「食が細くなるのはなぜ?」というテーマで内科医の佐藤留美(さとう・るみ)医師にお話を伺いました。今回は、中高年世代が食を楽しむ方法を伺いました。
――前回は「中高年になると、食が細くなる理由」について伺いました。今回は、「中高年におすすめの食事の楽しみ方」を伺えればと思います。
佐藤留美医師(以下、佐藤):暖かくなってきてお花見など外で食事をしたり、歓送迎会で会食をしたりする機会も増えると思うのですが、アルコールは食欲増進する効果があるので、お酒が飲める方は適度にお酒を飲んで食事するのもいいかもしれません。飲み過ぎに気をつけるのは大前提ですが。
――私の場合、お酒はあまり強くなく、1杯や2杯で気持ちよくなるのですが、つい調子に乗って飲み過ぎて後悔することもあります。お酒を飲むときに悪酔いしないコツなどあれば教えてください。
佐藤:アルコールは胃にあるうちはゆっくりと吸収され、小腸に入ると速やかに吸収されます。そのため胃から小腸への排出時間が速いと、どんどん血液に入って血中アルコール濃度が高くなります。なので、空腹時にアルコールをとるのは控えてなるべく食事と一緒に飲むようにしましょう。また、水も一緒に飲むようにしましょう。
――おつまみのおすすめはありますか?
佐藤: あさり・しじみにはアミノ酸・ミネラル・タウリン・鉄分などが含まれており、特にあさりにはタウリンが、しじみにはオルニチンが含まれています。どちらもアルコール分解に必要な酵素の手助けをしてくれます。また、納豆・豆腐・枝豆などの大豆製品や、鶏肉、魚、卵などには、肝臓の働きをサポートするタンパク質が豊富に含まれています。そのため、こういったものが含まれているおつまみと一緒に飲酒することをお勧めします。
――生活習慣病も気になるお年頃の中高年が、食事を楽しむためのポイントはありますか?
佐藤:食べる順番を意識すると良いかもしれません。例えば、野菜を先に食べると血糖値の急激な上昇を防ぎます。私たちの体は食事をすると血糖値が上がるのですが、インスリンの分泌により2時間以内には正常に戻ります。しかし、インスリンが分泌異常を起こすと、食後から2時間以上過ぎても、血糖値が低下しない状態になります。食後の高血糖は糖尿病予備軍や動脈硬化につながる可能性もあり、脳卒中や心筋梗塞のリスクもあるので注意が必要です。なので、まずはベジファーストを心掛けましょう。
また、高血圧を防ぐためにも食事の味付けも薄めにすることも大事です。味といえば、素材の味を楽しむのもいいですね。例えば旬の食材を積極的にとる。食材の旬というのは、ほかの時期よりも新鮮でおいしく食べられる時期を言います。旬の食材は市場によく出回るので価格も安価で手に入りやすいのも嬉しいですね。
例えば冬の時期だったら、ブロッコリーや白菜、大根。春は玉ねぎ、そら豆、ニラ、夏はトマト、キュウリ、枝豆、なす、秋は株、さつまいもでしょうか。
――外食時はいかがでしょうか?
佐藤:上記の点に加えて、植物性のオリーブオイルを使ったイタリアンも脂質異常症対策としておすすめです。
――脂質異常症とは?
佐藤:血液中の脂質の濃度が基準の範囲にない状態を脂質異常症といいます。特に女性は更年期にあたる50歳前後から注意が必要と言われています。動脈硬化性疾患予防のためには脂質異常症を早期に改善することが大事です。
抗酸化物質などの機能性成分を含む、野菜類や果物類、大豆や大豆製品は動脈硬化疾患の危険性を下げる可能性があります。その際、糖質の多い果物をとりすぎないようにしましょう。他には、肉の脂身や加工肉、鶏卵を控えめに、魚や低脂肪乳製品をとることを意識しましょう。
■ 参考文献・サイト
『一生役立つきちんとわかる栄養学』(西東社)
・厚生労働省e-ヘルスネット「脂質異常症」
・厚生労働省e-ヘルスネット「アルコールの消化管への影響」
・厚生労働省e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
・「総合東北病院」HP
・一般社団法人「日本女性心身医学会」
<プロフィール>
佐藤留美医師
久留米大学医学部を卒業後、同大学病院や市中病院にて臨床医として研鑽を積む。大学院では感染症学の研究に励み、医学博士号を取得。臨床面では内科・呼吸器・感染症・アレルギーなどの専門医及び指導医となり、同大学関連の急性期病院にてCOVID-19の診療など第一線で活躍中。花粉症や喘息などアレルギー疾患の診療経験も豊富。その傍ら、現在は藤崎メディカルクリニックの副院長として地域医療にも取り組んでいる。